8.韓国との競争について

  1980年頃から韓国の造船業は目覚しい発展を遂げています。その発展の状況は丁度30年前の日本と
 同じ様相を呈しております。現在の建造量は世界で見て、日本の40%、韓国30%で両者で実に70%の
   船を建造しています。その意味で現在は日韓競合の時代と言われています。1993年に韓国が時の為替
 レートを追い風に年間受注量で日本と一度だけ抜いたことがあります。昨年の受注量は日本が僅かに
 リードしているものの両者共ほぼ1,300万トンで並んでいます。
  10年位前には日韓比較で、賃金1/3、能率1/3でほぼ互角、5年前には賃金1/2、能率1/2で
 ほぼ互角だが資材費面で韓国に若干優位と言われていました。3ケ月程前に韓国造船所を訪問して、
 色々と議論をしてきましたが、現在では能率面で日本に肉迫しつつあり、賃金面では大幅な賃金上昇にも
 かかわらず為替の関係で日本の1/2が続いているという事で韓国がコスト的に優位になっているようです。
  現在の韓国の大混乱の中では関連する要素が多く何とも言えませんが、いづれ落着いてきたら一層強力
 な韓国造船になると思われます。
  日韓競争力を論ずる時、関係する最も大きな要素は為替レートであります。WON/円 レートと受注
 シェアをプロットすると明らかな相関が見られます。(資料12頁)ロングランで見ると1970年に1WON=
 1円だったものが、以後WON安、円高の歴史で現在WON/円 レートは10以上です。
 言い換えればWON安を武器に急追する韓国を生産性UP、コストダウン、技術力で何とか今日まで日本が
 しのいできたという歴史であります。

 今後については

     為替は圧倒的に韓国有利
     技術格差は余りなくなってきた
     企業規模は韓国有利、造船人員は充分居る。
     造船は韓国では重要輸出産業である。(国策)
     韓国は近代的な立派な設備を有する。

 等を考えると、通常船では(タンカー、バルク等)ではいづれ韓国に主力が移り、日本はより技術力を必要
 とする船に注力することで両者が拮抗する事になると思われます。両者は足の引っ張り合いでなく、共生
 の理念の下、協力して造船マーケットを維持する態勢作りが必要と思います。

9.今後の日本の造船業

   海上輸送は経済活動の続く限り絶対に必要であり、これに代わる大量輸送手段はありません。海運、
 造船は永久に必要であります。造船業は発展期を過ぎて現在成熟産業となっていますが、かっての石炭
 産業の如く衰退産業ではありません。むしろ世界経済の伸びにリンクした緩やかな成長産業と言えます。
  又、韓国、台湾、中国、東欧諸国等の振興造船国の急追を押さえ、為替面での不利を克服しながら
 41年の永きにわたり、日本が世界一の座を占め続けている事は、造船業が日本に、或いは日本人に適
 した産業である事の証拠であります。又、船と言うものがロマンに満ちた製品であり、それを造る事が
 営業、設計、現場作業等すべての面で人間性を快く刺激する楽しいものであることを忘れてはならないと
 思います。
   当面、韓国と互角の競争が続くと思われますが、日本造船が以下のような点に注力していけば、今後
 共、世界一の座を守り続ける事が出来ると思います。
  
1)更なる合理化、競争力の強化
   先に述べた問題点の解決を目指した次のリストラを行うべきです。余りに小さく分かれすぎた造船所の
  集約と関係機関の整理を行い効率化を計るべきと思います。
   又、現在各造船所で進められているCIMS(Computer Integrated Manufacturing System)の完成等に
  よる更なる生産の合理化が必要です。

2)技術開発
  a)現在保持している技術の改善、即ち高性能化、高経済船、信頼性安全性の高い船の開発

  b)新しい技術の開発と需要の開拓
     TSLやメガフロート或いは高速船に代表される新しい技術の開発、新しい輸送システムの開発等に
     よる需要の開拓が必要と思います。

3)人材の確保  
   造船不況以降、造船に参入する若い技術者が大幅に減っています。又、先程述べたように高齢化と人員  減の問題があります。企業は正に人なので若い人材の確保が絶対に必要であります。
                                                            以 上