4.英国造船業について

   日本造船の発展を低賃金と政府助成によるものと根拠のない理由で非難し続け、自らの生産性向上
     の努力を怠ったヨーロッパ造船は次第に没落の道をたどることになる。(資料8頁)
   造船王国を誇った英国は戦後日本造船の発展と共に急速に競争力を失い国の助成を受けながらも
    退潮の道をたどった。1956年には日本に一位の座を譲り、1978年にはB.S.(BRITISH SHIPBUILDERS)
    として全造船所を一つにまとめ国有としたが、1988年にサッチャー政権による民営化と共に殆どの
    造船所 が閉鎖するか、売却されました。
   現在、商船建造を行っているのはスコットランド グラスゴーにあるゴバン造船所とアイルランド ベル
    ファーストにあるハーランド アンド ウルフ造船所の2ケ所のみであります。しかも両社共ノールウェイ
    資本に買収された外国の造船所であります。

(ゴバン造船所) 
  筆者は1988年の或る日、ヨーロッパの造船所を見聞するため同造船所を訪問した。当然招かざる客と
   しての対応を覚悟していたところ、同所の社長は快く受け入れてくれ、昼食を挟みながら次の様な話をして
   くれました。
  グライドリバーの河口に面するグラスゴーは英国でも最も造船の盛んな街で、河口に面して約30の
   造船所があった。日本との競争に負け次々と撤退し、現在は当社のみとなった。盛期のグラスゴーの人口
   は120万人数えたが、造船衰退により現在は約80万人である。従って、此の地の人間にとって日本人は
   恨み骨髄である。貴殿は勇敢にも、よく訪問したものだ。と。

(ハーランド アンド ウルフ造船所)
  もう一つの造船所ハーランド アンド ウルフはかって世界一の造船所でありました。有名なタイタニック号
 もここで建造されました。
    現在大戦の記念艦としてロンドンのテームズ河に係留されている、ベルファストと言う巡洋艦を御存知の
   方も多いと思いますが、これも此処で造られたものです。大戦中の写真が残っていますが長大な艤装岸壁
   には空母、戦艦、巡洋艦、商船等々10数隻の艦船が所狭しと並んでいます。
 独空軍の攻撃目標として激しい空襲を度々受けたそうです。
  この造船所も立ち行かなくなり、1988年ノルウェー資本に買いとれました。ノルウェーの資本家は、親交
 のあった川崎重工業に技術支援を求め、造船を今も継続しています。私共が技術指導に行って驚いたの
   は、その設備の立派なことでありました。立派な建屋、高性能の自動機器、クレーン、更には現在日本の
   造船所が取組んでいるCIMSの道具であるCAD、CAMが既に導入されている。にもかかわらず生産
   効率は極めて悪く、工数は我々の4〜5倍かかっています。生産性を高めるのは機械だけでは駄目、やは
   り人間だ、ハードだけでは駄目、ソフトの必要性を痛感致しました。我々の指導を快く受入れたこの造船所
   は、多くの人材が勉強に来日し、川重の指導員も相当数が出張し、生産性向上の努力が払われ、めざま
    しい向上を見ましたが、結果的には生産性が倍位向上(即ち工数が我々の2倍位)したに止まり、そのあ
    たりでストップしてしまいました。
    このあたりは国民性の相異とでもしないと理解できません。
  外見上の大きな変化の一つは事務所を大部屋にしたことです。日本以外の国は一般にそうですが、課長
   クラス或いはそれ以下でも少し偉くなるとすぐ個室が与えられて個室に籠ってしまいます。組織的な共同
   作業が必要な造船の現場では適当ではありません。もう一つの大きな事は15位あった職種別労働組合
   を一つに したことです。これはこの国の風土では大革命であったと思います。
  100年の昔、造船学、造船技術を教えてもらった英国の造船所に今我々が設計図を支給し、生産性
   向上の指導を行うということはいささか感慨深いものがありました。

5.船はどのくらい要るか。世界の造船需要

   世界の船腹量は、経済活動による世界の荷動き量に殆どリンクした形で推移している。特に最近では
   投機的な新造船発注は殆ど行われないので両者の関連はより高精度になっていると考えられます。
   船腹量を非常に概略的に見ると……

   世界の現存船腹量  : 5億トン(G.T.)8万隻(小型船6.5万隻)
   年間建造量       : 2,OOO万G.T.〜2,500万G.T.(4〜5%)
   年間解撤量(含喪失) : 1,OOO万G.T.(2%)
   年間増加量      : 1,OOO万G.T.〜1,500万G.T.(2〜3%)

  年間増加量(2〜3%)は世界経済の伸びにリンクした海上荷動量の増加であろう。年間解撤量(2%)だ
    と5億トンの船腹を更新するためには50年を要することになる。船の需要は一般に20年〜25年と言わ
    れており、現状では老朽化が一層進みつつあると言え大幅な解撤量の増加が必要であろう。
  造船業にとって重要なのは年間建造量であり、これが必要船腹量即ち需要に対して適正な供給量である
    ことが重要であり、これがバランスを失うとマーケット即ち船価に大きな歪みを生じることになります。
  造船工業会では需要予測として、船腹の需給に関係する要素を一つ一つ細かく検討し、その総合として
   今後の需要予測を行っています。(資料9頁)それによると1975年を中心として大量建造された大型
   タンカーのリプレースが行われる2000年〜2005年を中心として2,200万G.T.程度の需要があるが、
   2005年以降は順次下降して2,000万G.T.以下となると予測しています。
  これに対して供給力の方は、生産性向上、韓国の大幅な設備増強、中国や東欧諸国の造船業への参入
  等々によりかなりの増大が見込まれ3,200万G.T.程度と予測されています。
  従って、世界の造船業は短長期的にオーバーサプライの状況であり、厳しい競争が継続すると考えられ
    ます。共生の理念の下に各国が如何に生産増大を押さえ調整を計っていくかが重要であり、世界一の
    造船国としての我国のリーダーシップが問われています。